芸術起業論 村上隆

芸術起業論

芸術起業論

先日取り上げたニュースに釣られて。


刺激的な本でした。著者の村上隆は、アニメなどの日本のサブカルチャーをベースにしたポップな作品を展開し、海外でも高い評価を受けている日本の現代美術家

美術=商業行為と捉え、美術業界の構造を徹底的に分析し、いかに美の本場である欧米の美術市場に受け入れられるか、を説いた本。いままで、「テキトーなウンチクを付けて、詐欺まがいの行為をするオッサン」というイメージでしたが、この本を読んでそのイメージは少なからず破壊された。

業界を分析した上で“どんな作品が新しいのか”を徹底的に考え抜き、それを作品上のみならず、サブタイトル、解説で相手に伝える努力をせよ、新しい概念を打ち立てれば、歴史に名が残るしそれが芸術だ、ということかと思います。


“芸術"は崇高なイメージを持たれていて、日本においては欲を捨てた“求道者”こそが芸術家として評価される。しかし、芸術は表現行為である以上、表現者の欲望から切り離すことができるものではないと思う。金がほしい、女にモテたいということから目をそらさないでむしろエネルギーにする。その点は著者の考えにまったく同意します。ドストエフスキーだって金のために小説を書いたが、その作品の素晴らしさは曇ることが無い。


しかし疑問に思うのは以下のようにも述べていること。

私は「美」のために働いて行きたい。そして日本、世界のどこにおいても『美』を創造し、その名の下に喜びを分かち合いたい。・・・・・・

作品の新しさ、っていうのは理解できたのだが、そこに「美」があるか、というと甚だ疑問に思うわけです。概念、発想の新しさを売りにしている作品における美ってなんなんだろうと。もちろん主観的なものですから、「作品そのものが美しいじゃん」とか「その概念や哲学が美じゃん」といわれればそれまでなんですが、「こういうものが美だ」とか「美を追求したい」っていう信念が欠けているんじゃないでしょうか。



芸術とか美学に関してど素人ですが、非常に面白い本でした。


追伸
著者はエイフェックス・ツインが好きらしい(笑)表紙もその影響か???

エイフェックス・ツインの有名なアルバムジャケット